働く者のための「労働法連続講座」第8回

「高齢者雇用・障がい者雇用」

 2023年月19日の第八回講座のテーマは「高齢者・障がい者雇用」です。講師はCU三多摩顧問弁護士の塚本和也氏。以下に要約して報告します。

1、高齢者・障がい者雇用を学ぶ意義

①高齢者の就業率約25%、労働者全体の13%を占めており、今後も増えることが見込まれる。

②企業が従業員に占める2.3%の障がい者を雇用しなければならないとされている。

しかし、この分野の法律の多くが『努力義務』であり、法律で裁くより、労働組合が力を発揮できる分野である。

2、高齢者の雇用の相談

(1)高齢者雇用に関する法制定の歴史

1986年に、『高年齢者雇用安定法』の制定で60歳定年を法定化した。その後、厚生老齢年金の支給開始年齢の引き上げに伴い、2004年の改正で企業に❶定年引上げ❷継続雇用制度の導入❸定年廃止のいずれかを取ることが義務化された。さらに、2012年改正で、希望者全員を継続雇用することが義務化された。これも厚生年金支給の改悪とセットである。

(2)相談のポイント

65歳までは原則希望者全員が雇用される

❶労働者が継続雇用基準を満たしていないとして拒否されケースがある。しかし、最高裁は雇止め法理を参照し、労働者の期待権を認め、地位確認と賃金請求を認めた。(労働契約法19条)

❷しかし、事業主が継続雇用制度の導入を怠った場合、高年法の9条1項は雇用継続措置を義務として特定していないため労働契約上の私法的効果を有しないとして地位確認を認めない場合も。事業主側の抜け道となっている。

②継続雇用後の雇い止めは65歳までは継続雇用の合理的期待は肯定され、65歳以降も企業における制度運用や慣行で、労契法19条の適用がありうる。

 60歳以降、1年ごとの契約更新を65歳まで続ける形式でもよいが、65歳までは雇用が継続される期待は肯定される。

65歳定年後の再雇用拒否にも労契法19条が適用されることがある。

❶高年法の雇用確保措置は65歳まで、その後    

は就業規則や労使協定に左右される。

❷65歳定年後の採用拒否も労契法19条2号(契約期間の満了時に更新されるものと期待する合理的な理由があると認められること)の類推適用をした判例もある。

❸65歳以降の雇止めは地位確認の否定と認定   

に判断が分かれるが、定年後再雇用契約の運用に着目する必要がある。

④高年法の趣旨に反する労働条件の提示は損害賠償が認められることも。

❶継続雇用後の労働条件は就業規則や個別契約で定められる。その際、合理的裁量の範囲で提示する必要がある。

❷継続雇用後の条件が定年前の条件と著しく乖離するときは、不法行為による損害賠償が認められることも。しかし、地位確認は否定。

❸定年後再雇用であっても、パート・有期法8 

条(不合理な待遇の禁止)、9条(差別的な扱いの禁止)に基づいた検討が必要になる。

❹極めて不当な労働条件への合意があったとしても公序良俗に反する時、損害賠償請求を検討する必要がある。

⑤就労者とシルバー人材センターとの法律関係は個別の実態に応じて判断される。

❶シルバー人材センターの提供する業務に就業する高年齢者はシルバー人材センターとの請負又は委任契約関係にある。

❷職業紹介事業の場合は就業先との間での雇用契約とされ、派遣事業の場合は人材センターとの雇用契約を締結し、いずれも労働者性が肯定される。

❸シルバー人材センターとの請負又は委任関係であってもその関係は個別の実態によって具体的に判断される。

 

3、障がい者の雇用に関する相談

(1)障害者の雇用に関する法制度の歴史

①『障害者権利条約』批准(2014年)に合わせ、『障害者差別解消法』(2013年)が制定された。

②『障害者雇用促進法』の大幅改正(2013年)

❶障害者への差別の禁止❷事業主に対する合理的配慮提供の義務化❸苦情処理など紛争解決援助制度の整備(努力義務)❹法定雇用率の見直しと精神的障害者の雇用の義務化

(2)合理的配慮の提供義務

①障害者雇用促進法の定め

❶障害の特性に配慮した必要な措置を講じること❷能力の有効な発揮の支障となっていることを 改善するため、障害特性に配慮した施設の整備、援助者の配置を講じなければならないとしたが、事業主に過剰な負担になる時はその限りではないとしている。

相談を受ける際には合理的配慮が本当に事業者の過剰な負担か否かを見極める必要がある。

②合理的配慮指針

❶全ての事業主が対象❷障害者と事業主の相互理解の中で提供されるべきもの❸手続き、内容について、募集・採用時、採用後に分けて具体的に定めている。

③事業主の過重な負担か否か

❶事業活動への影響の程度❷実現困難度❸費用・負担の程度❹企業の規模❺企業の財政状況❻公的支援の有無などの要素を総合的に勘案し、個別に判断する。

 

(3)雇用義務制度

 従業員が45.5人以上の企業は全従業員の2.3%(2023年)の障害者を雇用しなければならない。その算定は❶企業全体で算出する❷重度身体及び重度知的障害者は一人を二人とみなす❸短時間労働者は0.5人とする❹障害者の就労が困難な部署の除外率がある。

4、この回のまとめ

 高齢者及び障がい者の労働問題の相談については、法律も多くが努力義務と位置付けられている。これらの努力義務について、本当に施設整備や支援体制の整備をする力が企業にないのかを検討し、雇用の安定的な継続と就労環境を改善させ、労働者の権利を守る取り組みが必要。

 また、障がい者の雇用の安定を図るための特例子会社で働く労働者の処遇が本当に守られているかも重要な相談ポイント。