働く者のための「労働法連続講座」第11回
『雇用契約書、就業規則をめぐる諸問題』
11月18日の講座のテーマ、『雇用契約書』と『就業規則』は労働相談における重要な資料です。それを読み解くポイントを知ることが大事と講師の塚本弁護士はこのテーマを学ぶ意義について強調しました。以下要約します。
1、労働契約に関して
(1)労働契約の成立と労働条件の決定
①労働契約は使用者と労働者の合意で成立する。
②労働条件は労働者と使用者の個別の合意が原則。
③労働条件の変更も労働者と使用者の合意が原則。使用者側の一方的な決定は認められない。
- 合意内容は法令や就業規則、労働協約などの規制を受ける。
- 規範には以下の序列がある。
法令(強行法規)>労働協約>就業規則
・労働協約や就業規則は労働法を下回ることは不可。
・労働法を下回った協約や就業規則は労働法を適用。
- 使用者は労働契約締結時、労働条件を明示する義
務を負う。
・明示すべきものは以下の6点。
a契約期間b有期雇用の場合は更新の基準c就
業場所及び業務d労働時間(始業・終業時間、残業の有無、休憩時間、休日、休暇、交代勤務がある場合はその転換についても)e賃金(賃金の決定、計算・支払方法、締め日・支払日)f退職(解雇の事由を含む)
★使用者は労働条件をできる限り書面にて通知する(労働者側は書面での確認を要求すること重要)。
(2)求人広告と労働条件
①求人票や求人広告の労働条件は
・労働契約の内容とはならない。
労働契約締結時までに説明された労働条件が労働契約の内容となるので要注意。
・使用者は求人票と違う労働条件で契約しようとするときは、その変更条件を書面で明示しなければならない。
②公共職業安定所の求人票記載の労働条件
・契約時にこれと異なる合意をするなどの特別の事情がない限り、記載内容が労働条件となる(判例)。
③就労直後の労働条件の不利益変更
押印させられてもそれが自由意思か否かでその効力が否定されることがある。
(3)採用内定取消、採用延期
①採用内定はいつの時点で契約成立となるか。
・事実関係で判断される。
・内定通知の時点で契約成立と認められること多い。
②採用内定取り消しには大きなハードルがある。
・取消が認められるのは限定的。
・不況を理由とした取り消しは認められない。
・取消の場合は賃金全額の支払請求権がある。
・損害賠償請求も視野に入れる。
(4)本採用拒否と試用期間中の解雇
①本採用拒否と試用期間中の解雇の有効性は客観的合理性と社会的相当性で可否を判断する。
②就業規則に限定がない場合には原則として試用期間の更新、延長は認められない。
2,休職に関する相談
(1)休職に関する法規制はない
①制度を設けるか、どのような内容にするかは企業が決める。
(2)私傷病休職に関すること
使用者が労働者の休職の求めを拒否し、解雇や休職打ち切り復職を求めることや、労働者の就労を拒否し解雇することがある。
①使用者は休職の申し出を拒否できるか。
・就業規則の定めにより休職を申し出た場合、規則の
趣旨の解雇を猶予する目的に照らして、原則として認められない。
・定めがない場合は解雇事由にあたるか否かが問われる。
②使用者は復職を拒否できるか。
・労働者の意に反する時は、労働者の健康状態によっ
て決められる。
・労働契約が労働を特定していない時、他の業務への就労を拒否できない。
*厚労省は精神疾患の労働者の復職に関するプラン
を策定するなどの支援について指針を発表している。
③求職や復職に関し、合理的な理由があれば使用者は産業医などの受診を命ずることができる。
*休職中の収入確保について、健康保険の傷病手当などの給付を受けることが出来る。
3、雇用差別に関する相談
(1)差別禁止規定の概要と均等待遇原則
①労基法は第3条で・国籍・信条・社会的身分を理由とする賃金差別の禁止、第4条で女性であることを理由とした賃金差別を禁止している。どちらも罰則規定がある。
②賃金以外の差別の禁止は『均等法』による。
③均等法(5条、6条)は募集、配置、福利厚生、職種・雇用形態の変更、退職勧奨・定年などの性別を理由とする差別を禁止している。
④均等法7条では、身長体重制限、転勤の不可、昇進における転勤経験を要件とするなどの差別は禁止。
⑤紛争解決の手段として、事業所内に苦情処理機関の設置などを努力義務としている。
*訴訟や労働審判、都道府県労働局の活用などを検討する。その際同行することも必要。
4、労働契約終了に関する相談
(1)労働契約終了の形態について
①解雇 使用者側からの一方的な解約
②退職
・辞職 労働者側からの一方的な解約(2週間の
予告期間を要す)。
・合意解約 労働者と使用者の合意による解約。
定年などがある。
(2)辞職(退職)の自由
①無期雇用の場合辞職は自由。
・2週間の予告期間を経る。合理的理由があれば予告期間を1カ月程度延ばすことは許容される。
②有期雇用の場合
・やむを得ない場合にのみ辞職できる。
・契約期間の初日から、1年以後は退職自由。
(3)退職勧奨・退職強要
①労働者は退職勧奨に応じる義務はない。
②退職勧奨にはきっぱりと断る。
③継続する時は、内容証明郵便で強要をやめるよう通告する。仮処分申請をすることも有効。
④その手段方法が社会通念上相当性を欠く時は、損害賠償請求の対象となる。
⑤退職勧奨を目的の配転命令は無効。
*退職強要か否かは個別・具体な事情が考慮される。従って、面談の録音、担当者の人数、言動、部屋の広さ、面談時間などをメモし、証拠を残すことが大事。
(4)退職の意思表示の撤回・取消・無効
①退職の意思表示の種類3点を区別して認識することが重要。
・労働者の一方的な解約の通知又は使用者の同意が
なければ撤回できないとされる。
・合意解約の申し込み
雇用契約終了の効果が発生するまでは特段の事情がない限り撤回できる。
・使用者からの合意解約申し込みに対する承諾
a承諾の権限を有する者によって行われること、
b内部の手続きが行われ本人に通知されること、
c辞令が交付されること
②相談を受けたら
・退職の意思表示をしておらず、退職に不満を持っている時は、退職の意思表示ととられる行為をしないようアドバイス。
・使用者側から一方的に合意解約の説明がされた時は、退職届撤回の意思表示をする(内容証明などで)。
③退職の意思表示の取消・無効
・意思表示に対する承諾の3点があっても、手続きに
瑕疵がある場合は無効を主張できる。
・意思表示が自由意思ではないと認められればその
意思表示の効力は生じないと考えられる。 以上。
※今回で、講義はすべて終了。次回は学んだことを生かして、労働相談の模擬体験を行います。