労働相談から
求人情報と実際の賃金が違う
好条件を「餌に」はだめ!
保育士のAさんは、仲介業者の広告で賞与が基本給の3カ月分、747,000円支給されることを知りB保育園に転職しました。この事業所はNPO法人が運営するY市の認可保育園の一つです。
Aさんは20数年間保育士をしているベテランですが、前の職場の賃金より今回の職場の賃金の方が良いことから転職を決め、昨年4月から働き始めました。
そして、採用前の2023年1月に出された「雇用条件通知書」には、賞与は基本給の3か月分と明記されていました。ところが、働き始めて一回目の賞与は支給されず、二回目もかなり少ない額でした。Aさんは約束が違うと思い、総務・人事・労務の担当者に「おかしいのではないか。」と訴えましたが、法人側は動かず、理事長も何も言いません。
Aさんはこんな時は労働組合がいいのかもしれないと考えていたときに、CU東京三多摩の労働相談会があることを知り、昨年末の相談会に訪れました。
その相談で、相談員は、募集段階で明示した労働条件と異なる条件で労働契約を結ぶときは、契約締結前に変更する労働条件を書面などで明示しなければならない(職業安定法5条の3第3項)ことになっており、採用前に変更したことを明示しなければ、募集段階の労働条件で契約が成立する可能性があるとを伝えました。
また、相談員は変更のことなどは一切聞かされていないというAさんに、雇用契約締結前に法人が仲介業者に示した雇用条件通知書は労働条件通知書と同じもので、法人側は守る義務があることも伝えました。
その場では年末に理事長と会うのでその状況を見てからとなりましたが、結果的に何も変わらなかったことから、改めて組合に相談に来ました。
2024年1月の相談では内容の再確認と団体交渉の日程を調整し、法人理事長に団体交渉の申し入れを行いました。そして、1月末に第1回目の交渉を行い、組合から職業安定法5条の3に関して説明を行い、変更を明示していない法人側に、募集段階に示した当初の賃金、労働条件を守る義務があることを伝えました。さらに就業規則が変更され、3回目の支給日が4月にされましたが、それはAさんの退職を前提として変更されたものであり、同意なき不利益変更に該当し、労契法に反することも指摘しました。
法人の人事担当者は、試用期間は賞与は出ないということは、口頭で説明したと発言しましたが、Aさんはそんな話は他の人にも聞いたが誰も知らなかったとの反論をしました。
そして2回目の団体交渉を2月上旬に行い、法人側は募集段階にしました賞与からすでに支給した分の差額全額を解決金として支払うと回答をし、今回の件は決着しました。
今回の事案のような、求人票や求人広告と実際の賃金が違うという事案は過去にもありましたが、求人票・求人広告では賃金、労働時間など労働条件明示義務が職業安定法5条の3で義務付けられており、異なる条件で労働契約を結ぼうとする場合は、締結前に変更条件を書面で明示しなければならないことも義務化されています。
しかし、使用者が変更条件を説明し、労働者が押印をして、労働契約が結ばれた場合は、変更後の労働条件が契約内容となる可能性があります。十分注意しましょう。