労働法講座

働く者のための「労働法連続講座」第10回

ハラスメント等—–活発な意見交換

 10月21日の講座は『ハラスメントの相談について』。講師は塚本弁護士。以下要約します。

1、ハラスメントに関する相談を学ぶ意義

・相談の際に、聞き取るべき「事実」や集めるべき「証拠」のポイントが分かる。

・労働組合の本来的役割である「職場環境の改善」につながる。

2、ハラスメント総論

(1)使用者への責任追及の法的根拠には、

①不法行為法上の使用者責任②債務不履行責任(職場環境配慮義務違反)の二つがある。

(2)使用者は、①パワハラ防止措置義務(労働施策総合推進法30条の2)②セクハラ防止措置義務(均等法11条)③マタハラ・イクハラ防止措置義務(均等法11条の2,育介法25条)などを負っている。これらは公法上の義務であるが、その内容が使用者の負うべき職場義務配慮義務の内容に取り入れられている。

(3)加害者・使用者の民事責任の有無はケースバイケースで判断する。

(4)業務命令を悪用したハラスメントの違法性は①業務上の必要性➁違法・不当な目的の有無③労働者の被る不利益を基準に考える。

(5)ハラスメント事案では加害事実等の立証が決め手となるので、証拠の収集が重要。相談を受けたら、実態を詳細に把握すること。

3、各論

(1)パワーハラスメント(パワハラ)とは

 労働施策総合推進法はパワハラを職場で行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されることと定義。

・指針はパワハラを①身体的攻撃②精神的攻撃③人間関係の切り離し➃過大な要求⑤過小な要求⑥個の侵害の6類型に整理。

・その違法性は上記の定義や類型に関わらず、行為者の地位・権限、行為態様・程度、行為者と労働者の関係性、業務との関連性、被った被害の内容・程度など諸事情を踏まえて、社会通念に照らし判断される。

*職場内とは勤務時間中であり、優越的とは上司からとは限らない。 

(2)セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)

・性的な言動により、相手方やその他の者に対して、精神的・肉体的な不快感や苦痛をもたらす行為であり、対価型セクハラ環境型セクハラの二つに分類される。

注1:対価型とは被害者が拒否したことにより、解雇、降格、減給などの不利益をこうむること。

注2:環境型とは労働者の就業環境が不快なものとなり、労働者が就業する上で看過できない支障が生じること。

違法性は、両当事者の職務上の地位・関係、行為の場所、時間・態様、被害者の対応等諸般の事情を考慮し、その行為が社会通念上許容される限度を超えているか否かによって判断される。

・セクハラ事案では、被害者心理を踏まえた、相談や主張・立証活動を行うことが求められる。

(3)マタニティ・ハラスメント(マタハラ)、育児ハラスメント(イクハラ)

・マタハラは女性の妊娠出産の関するハラスメントで、イクハラは育児休業取得に対するハラスメント

・均等法や育介法は妊娠・出産・育児休業取得を理由とする不利益取り扱いを禁止している。

*より厳しい制限がされている。

(4)SOGI(ソジ)ハラスメント

・性的指向や性自認に関するハラスメント

・パワハラ防止措置義務やセクハラ防止措置義務の対象となりうるので、これを活用することが望ましい。

・相談を受ける者は、セクシャルマイノリティの人々の置かれた状況を十分に理解する必要がある。

(5)カスタマー・ハラスメント(カスハラ)

・労働者が取引先や顧客から受けるクレームや嫌がらせのこと。

・企業内ではないため、対応が難しい。しかし、クレームを受けた労働者への相談、支援体制が整っているかなど使用者の責任(職場環境配慮義務違反)が認められる場合もある。

*心的負荷による精神障害の労災認定基準が改正され、カスタマ―ハラスメントも対象に。

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