看護学校奨学金の返還問題
AさんはB病院で看護助手として平日午前中や休日等に働きながら、准看護士の資格を得るためB病院の資金貸付制度を利用して看護学校で学び無事卒業しました。Aさんはさらに正看護師の資格を得るために高等看護学校での就学を希望しましたが、1年間フルタイムで仕事に専念することを望む病院との合意が得られないまま、受験し合格しました。
その結果、病院側から、高等看護学校は昼間の通学課程であり「労働の提供ができない」として、進学断念か退職かを求められました。退職する場合には、AさんとB病院とが取り交わした「奨学金貸与契約書」の定めにより貸付金約120万円を全額返還しなければならないと迫られてCUに相談しました。契約書には、資格取得後2年間B病院で勤務した場合には返還を免除するとの規定がありました。
組合では、過去の判例等から、奨学金の貸与が①実質的に使用者が業務に関連して技能者養成、労働者確保のため、一定期間の勤務を約束させる場合には労働基準法16条違反となり、②貸付金返還規定が経済的足止め策として実質的に就労を強制すると認められるときは同法14条違反となり無効であり、返還義務はないとの立場で、団体交渉に臨みました。
病院側は理事長、代理人弁護士、顧問社労士などが貸付契約について違法性はなく、当然に全額返還を求めることを強く主張しました。組合側は、Aさんと病院との話し合いの経過(録音データ)から16条、14条違反は明白だと迫りました。同時に、裁判での決着は最終手段であり、病院側の立場もある程度理解できるので話し合いによる円満解決を求めました。
その結果、最終的にAさんがB病院に対して3割分を支払うことで合意解決に至りました。協議の期間中は雇用が継続され、夏季賞与が支払われたことからAさんの負担は最小限で済みました。
この交渉では、Aさんが病院側との話合いの内容を録音していたことが交渉の力となりました。(北村記)