働く者のための「労働法連続講座」第4回

『労働条件の切り下げ』

労働基準法は使用者を縛っている

 労働法講座の第4回目は『労働条件の切り下げ』がテーマ。講師の白神優理子弁護士は講義の冒頭「労働基準法は誰が守らなければならないか。」と質問。労働者か、使用者か、労働者と使用者かの3つの選択肢を提示。参加者が挙手で答えましたが、さすがに労働者に挙手した人はいなかったものの、両方と答えた人もいました。

 白神弁護士は「労働基準法は使用者が守らなければならない法律」とし、講義に入りました。

1労働条件の原則

労働条件は労働者と使用者の合意で決定されるのが原則(労働契約法3条1項)。

1)合意のない労働条件の切り下げは無効

同意を求められたら①拒否をする。又は持ち帰って検討すると述べる。②切り下げを押し付けられたら文書で、同意の撤回や異議の意思表示をする。その際、日付を入れる等証拠を残す。

2)合意は労使対等でなければならない。

強迫や誤認による合意は無効。労働協約や就業規則に反している場合も無効。相談を受けたら就業規則や労働協約の確認が必要。

*効力の強い順番は①法令>②労働協約>③就業規則>④個別の労働契約

2就業規則の作成・変更による切り下げ

 労働者と合意することなく、就業規則の変更で不利益変更はできない(労契法9条)が原則。しかし、例外として、変更が合理的で、変更後の就業規則が労働者に周知されていればよい。

*合理的とは ①法令または労働協約に反していないか。②法律的に必要な手続きを経ているか。③作成または変更に合理性が認められるか。

3労働協約変更による労働条件の切り下げ

1)労働協約は内容が不利益変更であっても、その組合の組合員は協約の適用を受ける(労組法16条)。

 しかし、労働条件の低下は民主的な討議を経た上で締結していない場合は無効。(最高裁判例)

4降格・配転を理由にした賃金の切り下げ

賃金切り下げの理由となる処分の種類は①懲戒処分②人事上の措置としての降格③職能資格制度による切り下げ④配転に伴う賃金の切り下げがある。いずれも就業規則に根拠が必要であり、濫用でないかは厳しく問われる。労働者の同意も求められる。*人事は指揮命令によるので、「異議を表示(証拠を残す)」した上で、撤回されない限りは従う。

5個別査定に基づく賃金切り下げ

個別査定の適法となる要件は①賃金切り下げを予定した賃金制度が合意されているか。有効な就業規則で定められているか。②制度が合理的か。③実際の査定が合理的か。

 以上、事例を入れて講義した後、白神先生は、団交を行う際は資料の収集が重要で、退職している場合は証拠保全の手続きも必要。十分な事前の準備が重要だとし、弁護士より労働組合の団体交渉の方が強いと激励しました。

 (文責 福田)

【当事者からの事例発表】

「多摩市にある厚生荘病院はかつて市民に頼りにされた病院でした。」と労働組合執行委員長の吉田千代さんは切り出しました。

2018年、厚生荘病院は湖山医療福祉グループとの業務提携を発表。以後2020年度に新人事制度が導入され、賃金の引き下げが始まり、ついに2021年7月、病院の閉鎖を発表。組合も団体交渉で閉院は反対と交渉を求めてきましたが、多くの職員が辞め、この年12月31日で閉院となりました。

吉田さんら組合員は退職を拒否、地域住民の皆さんと病院の再開を求め運動に取り組んできましたが、湖山グループは闘う組合員を解雇。2021年度末以降、組合事務所にも入れない状況ですが、現在、解雇撤回裁判を闘っています。ぜひ、ご支援をお願いします。

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