労働相談より
派遣労働者の不当な雇止め事件
派遣会社大手のS社の雇止め事件です。間接雇用(使用者と指揮命令者が異なる)の中で、派遣労働者がいかに不安定な状態におかれるかの典型的な事件でした。
残念ながら、派遣会社側の「企業防衛」的な対応で、団体交渉での解決は断念せざるを得ませんでした。また、現行の労働者派遣法は、労働者保護に値するものではないことを痛感する事件でした。
【事件の経過】
S社に派遣労働者として2025年1月に採用されたYさんは、募集条件の雇用期間長期の見込みに誘われ、コンピュータ関係の資格を生かせると考えていました。S社の採用の説明でも、派遣契約で3年の枠があるが、多くの人が契約更新を繰り返して3年働いているとの話がありました。最初は1か月契約だがあとは3か月くらいで更新を繰り返し、長期に働けるとの説明でした。最初の1か月契約についても、本人が働きやすいかどうか判断する期間だと言われ、とくに疑念を持ちませんでした。
Yさんは、国の外郭団体のJ財団に派遣されましたが、1か月の契約期間中に、契約更新はしないとS社から通告されました。雇止めの理由は、専門性が要求される業務だったが、派遣先のJ財団が、「Yさんは必要な技術水準を持っていない」とS社に指摘したため、雇止めとしたというものでした。これに納得できず、Yさんは労働相談をへて、S社に雇止め無効と損害金の請求で団体交渉を申し入れることにしました。
【組合の基本的な考え】
組合は、この雇止め事件の争点は①S社の募集の条件は雇用期間が「長期の見込み」となっているうえ、採用にあたっての説明も、労働契約不更新の可能性は一切触れず、長期に働けるとYさんの「期待を煽る」ものであった。Yさんの長期雇用への期待は、合理的で保護されるべきものである。②当初の契約期間を1か月と著しく短期としたのは、実質上の「試用期間」である。有期雇用の試用期間は、最高裁判例でも、契約不更新の理由が、「客観的で合理的、社会的相当性」がなければ無効となっている。この事件の当初の契約1か月は、適性を判断する試用期間であることは明らか。次の2点だと考えました。
【団体交渉でのS社の対応】
S社は、雇止めの理由は、高度なスキルを要求される業務についていたにもかかわらず、本人のスキルは必要なものに達していなかった。時給も高く、派遣先との関係で更新は困難と判断。当初の1か月契約も本人のスキルを確認するためで、試用期間ではないと言い張りました。
【交渉不調を受けYさんの意思を確認】
S社が解決の姿勢を示さない中、2回に渡る団体交渉は平行線に終わりました。組合は、この状況から、労働審判などの訴訟に進むしかないと考えましたが、Yさんの意思を確認し、今後の対応を決めたいと考えています。