働く者のための「労働法連続講座」第9回

『採用、退職と社会保険、労災保険』

9月16日の第九回講座のテーマは「退職と社会保険、労災保険」。講師は北村博昭特定社会保険労務士。

 北村氏は本講座のテキスト日本労働弁護団編著の『労働相談実践マニュアル』により、講義を行いました、以下要約します。

1、雇用保険制度

 労働者を雇用しているすべての事業(5人未満を雇用する農林業は除く)に適用される。

(1)雇用されると同時に雇用保険被保険者

①被保険者の種類

ア一般被保険者(外国人も)、イ高年齢被保険者(65才以上のウ‣エを除く)、ウ短期雇用特例被保険者(季節的雇用)、エ日雇い労働被保険者(日々雇用される者)

②適用除外者

労働時間が週20時間未満の者、イ日雇い労働者、四カ月以内の季節的事業に雇用される者、学生又は生徒、公務員

*会社役員や保険外交員、国外勤務者、外国人等の資格は詳細な検討が必要。

(2)失業等給付の概要

①求職者給付、②就職促進給付、③教育訓練給付、④雇用継続給付(高齢医者雇、継続、介護休業)

(3)受給資格要件

①被保険者期間が2年間に12か月以上ある。

②倒産又は解雇により離職した者は被保険者期間が通算6カ月以上。

③特定理由離職者

ア有期雇用期間満了で雇用継続しない者、イ正当な理由で離職した者(疾病、妊娠等)

(4)基本手当の支給開始時期

①職安に求職の申し込み後、7日過ぎから

②自己都合退職2回目の時、待機期間は2カ月。

③自己都合退職でも正当な理由があれば給付制限は受けない。

(5)基本手当の給付日数及び基本手当の額

年齢や被保険者期間により給付日数が異なるので注意。また、基本手当の額は賃金日額の50~80%で給付率は賃金日額により決定される。

(6)受給手続き

①離職証明書及び離職票を、居住地の職業安定所に提出する。

②事業主が離職票を交付しないときはハローワークにその旨通告し、請求する。

(7)労働相談のポイント

①離職票の離職理由が重要。解雇を争う場合は自分から「退職する」という発言はしない。

②事業主が示した離職理由に異議がある時は、離職者記入欄と事情記載欄に実際の離職理由を記載し、離職者本人の判断の欄の「異議あり」に○を付ける。

 

2、社会保険(健康保険・厚生年金)

①退職に伴う資格喪失

退職した日の翌日から資格が消滅する。

②任意継続

被保険者期間が2カ月以上あった場合、事業主負担分を含めた保険料を支払えば2年間に限り継続できる。退職した日から20日以内に申し出る。

③解雇の効力を争う場合の被保険者資格

原則は解雇が法律違反の場合を除き資格喪失届けが行われる。但し解雇が無効となった時は、健康保険組合又は厚生労働大臣に足して保険給付を求める。

3、労災保険制度

(1)労働相談のポイント

労働相談を受けた時は、まず証拠の収集・保全に努める。原則として、労災保険申請を先行させる。

(2)労災保険の目的

①業務上又は通勤時の負傷や死亡について、本人や遺族に保険給付を行う。

②社会復帰促進事業を行う。

(3)適用事業所

①全ての事業所(5人未満を雇用する農林水産業を除く)

②保険の適用者 働き方の別を問わず上記事業所に勤める労働者は全て対象。事業主が保険料を支払っていなくても給付の対象となる。不法就労の外国人労働者も含む。

(4)労災・通勤災害の判断基準

①業務災害

ア業務遂行性(労働者が使用者の支配下にある)、イ業務起因性(支配下での危険が現実化したと認められる)

②通勤災害

ア住居と就業場所との間の往復、イ単身赴任先住居と帰省住居との往復。

③保険給付

療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭保障給付、障害補償年金、介護保障給付金がある。

④請求権者は被災労働者又は遺族

⑤請求先

ア病院等で治療を受ける場合は病院での現物給付。申請は病院の窓口。イその他の給付は労基署。

⑥時効があるので注意

ア2年(療養補償給付、休業補償給付、葬祭料、介護保障給付金、二次健康診断等給付)。

イ5年(障害補償給付、遺族補償給付)。

⑦厚生年金・国民年金との関係

受傷・発症から1年6カ月経過すれば支給される。労災保険金との受給調整が行われる。

⑧実務上の争点

ア死亡・負傷・疾病と業務との因果関係、イ労働者性の有無、ウ障害等級、エ過労死した被災者はサービス残業の未払い残業代が給付基礎日額に含まれるかが争点に。

⑨行政不服審査等

 労災給付の支給決定などに不服がある場合は不服審査請求、さらに行政訴訟を起こすことができる。

(5)解雇制限

①療養休業期間とその後30日間は解雇できない。

➁打ち切り保障による解雇制限の解除

療養開始後3年を経過しても治らない場合、ア使用者が平均賃金の1200日分の打ち切り保障を行う時、イ障害補償年金を受けている場合。

 

4、脳心臓疾患・精神障害者等の労災認定基準

(1)脳心臓疾患

①脳心臓疾患の労災認定基準

一定の過重な業務上の負荷がかかったと考える場合に発症と業務の因果関係を認定する。

②労災認定を受ける要件

ア対象疾病(脳血管疾患、虚血性心疾患重篤な心不全)と発症時期重要

イ発症前に「異常な出来事」「短期間の過重業務」「長期間の過重業務」のいずれかがあれば認められる

③持病・既往歴との関係

自然経過を超えて増悪させる原因があれば認められる。

(2)精神障害の労災認定基準

①発病の有無と発病の時期が重要

②対象疾病

ICD-10(国際疾病分類表)中、統合失調症、統合市長賞及び妄想性障害、気分障害等

③労災認定の要件

ア発病前6カ月の間に強い心理的負荷が認められること。イ業務以外で発病したと認められないこと

④自死の場合 

正常な認識、行為選択能力の阻害、自殺を抑制する力が阻害されている状態にあったと推定される時。

⑤業務とは関係のない発病の事案でも、特別な出来事に該当する事案があった時、認定される。

 

5、この講義のまとめ

 雇用保険、社会保険、労働災害の資格要件や受給要件は複雑なものもある。相談の際は、個々のおかれた条件も様々である。従って、条件を詳しく検討することが必要で、それなくしては労働者の利益を守ることができない。